東京都福祉保健局 生活福祉部長 殿

2005年4月15日

路上生活者対策の改編に関する要望書


                  新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議(新宿連絡会)
                   池袋野宿者連絡会
                       連絡先・090-3818-3450(笠井)


 平素から「路上生活者対策」の推進、とりわけ昨年度は新宿地域における「ホームレス地域生活移行支援事業」実施にご尽力頂き感謝しております。
 今後とも、より多くの路上生活者達が路上から脱却できかつ自立生活が送れるよう、「ホームレス自立支援法」に基づく諸施策の前進、拡大及び拡充を私たちは強く望んでいます。

 さて、先般発表された東京都内の2月概数調査において区部の路上生活者数は「大幅に減少」との統計結果が出ておりますが、私たちの独自の調査では、「地域生活移行支援事業」実施時期においては「微減傾向」が見られましたが、3月下旬から再び増加し、新宿区においては一時期減少した人数分だけの増加が確認されております。各種政府統計においても、景気動向は引き続き「踊り場」状態から脱する事なく、また失業率も再悪化の懸念が取りざたされております。目に見えるテント生活者の数は確かに一定規模減少したとは云えますが、路上生活者全体を見るならば公園や河川区画はその一画に過ぎず、目に見えにくく、また統計にも出にくい駅やビル郡等で起居する路上生活者が増加している事実に着目してこそ、「路上生活者対策」と云えるのだろうと私たちは考えます。雇用の不安定、そして社会再編の波の影響で、多くの失業者や低所得者層が流動化させられ、ホームレス化している現状に手をこまねいて、目に見えるテント層の路上生活者だけの自立を主眼におくのは、明らかに施策上のバランスを欠く手法であると私たちは考えます。
 私たちは新宿区部で行われた「地域生活移行支援事業」を正当に評価し、その実施について可能な限りの協力をして来ました。それは公園を対象にした事を評価したのではなく、その事業内容(低家賃住宅施策と雇用対策の積極的な導入)、と、とりわけ当事者性を尊重していこうとする事業思想に共感したからこそでした。私たちは今回の新宿地域での新事業実施は、路上生活者対策全般を変えていく「実験場」であると考え、この推移によって今後の方向性が変ってくるだろうと予測しました。しかし、多少の混乱はあったものの、中央公園地区、戸山公園地区において計420名の仲間がアパートへの移行を済ませ、ほとんどの仲間が自らの力を発揮し、新たな新生活を今も送っています。今後、様々な諸問題が起こる事は予測できますが、一定の生活環境を得た以上、全員が雪崩を打って生活破綻に至ると云う事は常識的に見て考えられず、この事から考えても今回の事業は「路上からの脱却」に関しては一定の成功を見たと評価し得ると考えます。また、他地域においても新宿の経験が糧になり、強制的な事業ではなく、「正確な情報を得、希望する者が自らの意志で参画する」事業として定着しつつあり、その意味においては新宿地区と同様、一定規模の仲間の「路上からの脱却」は可能であると確信しております。
 この新宿での「実験」から演繹されるものは、今回の事業と事業思想を路上生活者対策体系の中に位置づけ直し、更にグレードアップされた路上生活者の自立支援策を徹底する事以外考えられません。今回の事業が5公園対策で仮に終ってしまったならば、「中途半端で未徹底な施策」にしかならず、今後の糧どころか、東京における路上生活者対策の流れを塞き止めてしまう結果にしかならないでしょう。

 私たちは、現行の地域生活移行支援事業の今年度実施分を徹底して行うと同時に、18年度以降、東京の自立支援システムの中に、低家賃住宅施策と、東京都独自の雇用対策施策を導入する事を求めます。そして、それは単に枝の接ぎ木としてではなく、現行の緊急一時保護センター、自立支援センター等の施策内容を有機的に結合していく改編を伴い、「総合的な施策」の内実を問うものとしてでなくてはならないと考えます。
 東京都の方針が明確でないところでは、各区、また受託団体等民間団体の自主的な力と云うものは発揮され難くなります。現場において働く部分に対して、明確なビジョンと計画を提示し、調整することこそ、東京都の位置であり、任務であると私たちは考えます。また、そのことによって路上生活者の自主的な力も発揮できると私たちは確信をしております。「指導」であるとか「アセスメント」であるとか、旧来の管理的な発想からではなく、当事者の能力開発と能力発揮環境の整備をいかに行うのかと云う、「地域生活移行支援事業」における基本思想を路上生活者対策全般、そして生活保護行政にまでも導入し、新たな施策体系を作り直す覚悟があるのか、ないのか、私たちの関心事は端的に云うならば、まさにこのことだけであります。

 今回、このような路上生活者対策の改編を展望に入れながら、私たちは下記事項を要望致します。ご検討および誠意ある回答をお願い致します。


一、地域生活移行支援事業の改善に関する要望事項

A,地域生活への円滑な移行を促進するための諸施策を準備する事

a 地域生活以降支援事業利用者の都営住宅への優先割当を可能な限り多く確保する事
b 低家賃住宅から一般住宅への移行を円滑にするため、希望する者への住宅情報の提供および、敷金礼金、保証人などに関する諸手当を検討する事
c 低家賃住宅「更新問題」についての基準を早急に明確にする事、その際、収入認定等の決り事を少なくとも「更新」一年前には提示するよう準備する事
d 同居人の増減についての契約変更を認める事、また、それが不可能な場合は、同条件での別物件への再移行をすみやかに行う事
e 借金問題解決のためのプログラム、及び財政的な支援を行う事
f  固定電話、携帯電話等の通信手段を持たない者へ、電話貸付等の支援を行う等基本的な連絡体制を早急に築く事

B,地域生活を安定させるため雇用確保策を徹底させる事

a 「臨時就労」を「生活習慣の取り戻し就労」として限定し、平等分配方式ではなく必要な人に必要な日数が提供できるよう柔軟な福祉雇用施策として位置づけ直す事。
b 建設局および港湾局等、東京都発注の公共事業の内、中高年齢者層が就労可能な職種に関して地域生活移行支援事業利用者や自立支援施設利用者を積極的に雇入れるよう業者に指導する事。また、社会的弱者を雇入れる企業を評価するため、入札の「ポイント制度」を導入するよう各局と協議する事
c 常雇い就労での生活基盤安定を促進させるため。保証人制度及び、初回給料支給までの生活費支援制度を検討する事
d 就職に必要な眼鏡、補聴器等の支給を迅速に行えるよう調整する事

二、地域生活移行支援事業の今年度新規実施に関する要望事項

a 地域生活移行支援事業が路上生活者排除の受け皿にならぬよう各区、また各局と本事業の趣旨を徹底し、また調整しながら新規事業を実施する事
b 地域生活移行支援事業の実績、課題等、現状の到達点に沿って説明会での説明を行う事
c テント居住者のみならず、公園内や公園周辺で起居する者も含めて事業説明を行い、希望者全員を利用させるようする事


三、自立支援事業に関する要望事項

a 自立支援センター再利用に関する条件を撤廃し、希望する者が何度でも再利用できるようする事
b 自立支援センター、及び緊急一時保護センターの各区割当を撤廃し、必要な仲間が必要な地域で滞りなく次のステップに進めるようする事
c 緊急一時保護センターでのアセスメント機能を廃止し、聞き取りを簡略化させ、各人が契約に基づき次のステップを選択できるようする事
d 緊急一時保護センター再利用期間を撤廃し、誰でもいつでも利用できるようする事
e 緊急一時保護センターに通勤寮的仕組みを加えると同時に住み込み就労支援等の職業紹介機能を加味する事
f 自立支援センターの入所期限を個々の現状に即し柔軟に対応できるようにする事


四、自立支援事業と地域生活移行支援事業の連携に関する要望事項

a 地域生活移行支援事業(低家賃住宅施策)を自立支援事業体系の中に積極的に組み入れ、「現に収入の手段を有しており、すぐにでも地域生活への移行が可能な者」「集団生活への不安を理由に生活保護申請を拒んでいる者」「再就職後、収入が不安定で、一定の期間低家賃での住宅補助が必要な者」「一定の収入があるが保証人等が見つからず、住宅に困窮している者」を主たる対 象にし、一定の生活サポートの元、全都規模で広く実施する事
b 地域生活移行支援事業の「臨時就労支援」「再就職支援」策を自立支援事業体系 (緊急一時保護センター)の中にも取り入れ、とりわけ中高年齢者の「就職困難者層」に対する常 雇い就労支援(自立支援センター)とは別の就労支援策を強化する事

五、生活保護行政と自立支援施策の連携に関する要望事項

a 自立支援事業と生活保護制度が対立的な関係にならぬよう、自立支援事業体系の中に福祉事務所 の相談員または相談所を配置する等、いつでも生活保護の相談及び申請が出来るような仕組みを作る事
b 各福祉事務所間の運用の違いを改め、自立支援施策施設に入所している要保護者、ないしは申請予定者についての生活保護適用基準を統一する事
c 自立支援施策に入所している要保護者の出口問題について、地域生活移行支援事業(低家賃住宅施策)の活用、または更生施設、特人厚宿泊所の活用など、社会資源を量的に確保し、移行に際しては本人意思を尊重する事

<対系図は別紙参照の事>

以上