厚生労働省社会・援護局地域福祉課より6月4日「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(案)」に対する意見募集が開始されました(詳細はこちらを参照にして下さい。)意見募集期間は7月3日17時まで。FAX、郵送、電子メールで意見が提出できます。(ちなみに、現行の基本方針はこちらです。)

 パブリックコメントの制度は市民がお役所の政策に意見を伝える場として大変大事な制度です。とりわけ民間が多くかかわっているホームレス問題においては尚更かも知れません。現状を単に告発するだけでなく、どういう制度があれば目の目にかかわっている仲間のためになるのか?この事を語らなければ、いくら政治の批判をしたとしても意味はないでしょう。是非、ホームレスに関わっている、そしてこれから関わろうとする多くの方々が意見を提出してもらいたいと思います。ちょっとした事でも良いのです。意見の件数が多ければ多いほどこの問題への関心の度合いが高いと考えられます。ご協力を宜しくお願いします。

 

<新基本方針を読んで>

 新宿連絡会として今回の新基本方針案に対する意見は現在まとめている所であり、提出後に公表をして行きたい。
 今回は、ざっと一読した後の感想を書いて見たい。

 言うまでもないが、今回の基本方針改定は、ホームレス自立支援に基づく基本方針策定、地方自治体による基本方針策定、そしてそこに方針化された実際の諸施策が運用され5年後の今日、ホームレスの数や実態の変化に即し、現在実施されている政策評価も含め、よりホームレスの自立のための効果的な施策を実施するため方針を見直そうとするものである。
 まずはそのため、昨年、そして本年と全国的な規模においてホームレス実態調査が実施され、また、それと同時に基本方針に定める施策に関する評価を専門家を集め確定して来た。
 その集大成とも言える今回の新基本方針(案)であるが、ホームレス者数は諸施策の結果として全国平均で約6千名減少しているが「依然として、多数のホームレスが存在していることやホームレスの数が増加している地域があることが判明した」と、大幅に数が減った事による「楽観論」「施策の解消論」を明確に否定している。
 実態に関しても「食事の確保や健康面での問題を抱える等、健康で文化的な生活を送ることができない状況がみられたほか、ホームレスの高齢化、野宿生活の長期化、就労する意欲が低い者の割合の増加等の傾向が見られた」「シェルター及び自立支援センターを利用した後に、再び野宿生活に戻ってしまう者がいることが確認された」「行政への要望及び意見としては、住居関連が45.1%(平成15年調査においては7.8%)と最も多く、次いで仕事関連が37.9%(平成15年調査においては27.1%)、健康関連が18.2%(平成15年調査においては3.8%)となっている」等、今回の実態調査で傾向として現れた数字を的確に示し、施策の緊急性、つまりは現在施策につながっていないホームレスも放っておいても決して実態は改善されない事を明確にしている。
 そして、それを前提にした肝心な推進方策であるが、結論から言ってしまうと、この部分は大幅な変更をせず旧来施策の継承が方針化され、内容的に修正が加えられているだけである。
 ここは、評価の別れる所であろうが、国は基本方針に基づく施策においてこれまで大きな失敗はしていない。失敗していないどころか、地方自治体との協力の中、着実にホームレスの数を減らし、効果ある施策を続けている(多少違和感がないとも言えないが、それが客観的な事実)。であるからしてこれまでの施策を大幅に変更する理由はどこにもなく、継続した力で残りの5年間着実に施策を進めて行く。これは妥当な考え方である。個々の施策についての政策評価も少なくとも予算がついている施策に関しては実績をあげているものばかりであり、これまたこれまでの推進方策を大きく変える必然性はどこにもない。
 となると、評価すべき点は修正部分にある。今回の基本方針案で大きく修正が加えられたのが以下の6点であると考える(見落としがあるかも知れないが)。
  1. (就業の機会の確保)
    協議会の役割をより明確にし、就業支援、就業機会確保支援、職場体験講習及び就職支援セミナー等を総合的に実 施すると明記された事
  2. (安定した居住の場所の確保)
    公営住宅への単身入居や優先入居の制度の活用等に配慮、また、居住支援協議会の枠組みを活用し、民間賃貸住宅に関わる団体との連携強化を明記した事
  3. (生活に関する相談及び指導に関する事項)
    洪水等の災害時に備え、平時から管理者との連携等を明記した事
  4. (ホームレス自立支援事業等について)
    自立支援センター設置に当たって、既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源を有効に活用するよう検討すると明記された事
  5. (ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者〜いわゆる予防策の項)
    日雇労働者に加え、日雇派遣労働、住居喪失不安定就労者がおそれのある者として加わった事
  6. (ホームレス数が少ない地方公共団体の項)
    施設整備について、既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源の活用を検討する事が加わった事

 これら修正された事項は、これまでの全国ネット等民間支援団体が訴えて来た課題が網羅され、すべて適切な修正であると言えよう。とりわけ「既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源の活用を検討」は(「検討」は削除すべであると提言しようと思うが)旧来の「箱物」センターから、より地域の実情に見合った小規模自立支援センター、また借り上げ住宅等でのアパート型自立支援センター(通所型)の可能性を大きく示したものでおおいに賛成である。東京で言えば5年ごとに大規模施設の解体と新築を繰り返し、その都度地域住民トラブルに巻き込まれと云う不毛かつ非合理的な施設設置計画は、確かに時代遅れであり、東京の自立支援事業再構築に示さされている借り上げ住宅型の自立支援センター構想に拍車をかける指標となる筈である。
 また、洪水等への備えなども、毎年台風の時期になると問題になる事を平時においてしっかりと連携体制を確立しろと云うのも、これまた意義ある修正である。自然災害時に最も弱い部分にその被害が及ぶのは、先の中国四川の大震災を見ても明白であり、地震と云わずとも、台風以外にも寒波等の命の危険に晒される自然災害が予想される。それへの備えを徹底して行く事まで踏み込んだ事は大きな前進である。
 その他の点も表現や踏み込み度合いの程度はあるものの、基本的に現状に即した施策の修正と評価できよう。

 とは云え、これで良いのかと言えば、現場で活動している者にとって不満な点は数多くある。私たちは仲間のために貪欲であるべである。上記の6点でもまだまだ十分に踏み込まれていない事項、たとえば住宅確保についても連携だけで良いのか等の議論もあろう。そして、何も変更がなされなかった他の部分、たとえばシェルターについての位置づけが依然不明瞭なままであるとか、現場の現実はまだまだ修正が必要と思う部分は多く残っている。
 「変化を踏まえた総合的かつきめ細かな対策」を実現するための指標にこの基本方針(案)がなり得るのか、なり得ないかのか?その観点から、私たちは良いか悪いかの二者択一ではなく建設的に更なる修正を求めて行きたい。

 

笠井和明(新宿連絡会)